お寺や神社への宿泊の始まりは、平安時代まで遡ります。当時は三重県の熊野三山へ参詣する熊野詣が時の天皇や宮中で盛んでした。しかし道中にも現地にも、宿泊する場所がない。それで道中および目的地の寺社が宿泊場所として利用されたのです。この頃はまだ、寺社への宿泊は貴族など特権階級だけが許されたこと。その後鎌倉時代から室町時代にかけて、武家、そして一般庶民へと広まっていきます。
江戸時代に入り、寺社詣では民衆の数少ない楽しみのひとつとして大人気となりました。お伊勢参りがブームとなっただけでなく、高野山や出羽三山など宗教の聖地へも、多くの人が足を運びます。それぞれの目的地では日頃お世話になっている寺院と関係のある宿坊へ宿泊、全国各地で活況を呈していたようです。
しかし明治時代に入り、誰もが自由に旅行ができるようになると、各地で宿坊が姿を消していきます。それでも現代にいたるまで、歴史・伝統・文化を継承しながら続く宿坊がまだまだ各所にあります。また、新たな宿坊も誕生しています。それらに宿泊することで、連綿と続く日本の伝統を体感できるのではないでしょうか。
宿坊とはお寺の一部ですが、一般の人も現代では気軽に宿泊できるようになっています。また、インターネット予約に対応している宿坊も多いので、旅先のホテルや旅館と同じように、予約し、利用することができます。
大きな違いは、「生きた伝統や文化を肌で感じられる」点です。宿坊に泊まった翌朝には、多くのお寺で朝のお勤め(勤行)が行われます。参加は強制ではなくほとんどが自由参加ですが、せっかくですから体験しておきたいもの。
また写経や坐禅、僧侶のお話なども、宿坊だからこそ体験できるものではないでしょうか。
食事も、大きな楽しみです。食事に対応している宿坊の多くは精進料理を提供しています。精進料理とは、仏教の戒律に基づき調理された料理。祝辞そのものも修行の一部として仏教と共に中国から伝わったものですが、動物性の食材は使わず、野菜を中心に料理内容が構成されています。伝統料理というだけでなく、野菜が中心だからこそ訪れた季節ごとの旬を味わえる、というのも魅力的です。
それから、ホテル・旅館との違いで覚えておきたいのは、宿坊によっては門限が早いところがある点、施設内でお酒が禁止されているところも多い、という点。基本的には「お寺に泊めていただく」ことになるので、各宿坊のルールを守るようにしましょう。
宿坊の魅力は、何といっても「生きた伝統や文化を肌で感じられる」点です。江戸時代の襖絵や掛け軸など文化的価値の高い美術品が見られ、また美しい庭園、歴史を感じる建物など、まるで美術館や博物館に宿泊しているような感覚に浸れます。
日常の喧噪を離れ、静かな環境に身を置いて寺社に息づく美意識に囲まれれば、心身共にきれいになれるのではないでしょうか。
また、寺社の歴史や仏教についての話、地域の伝統など、僧侶の方といろいろな話ができ、地域に詳しくなれるのも、宿坊ならではだと言えます。
近年宿坊を利用して、さまざまな修行体験を利用する人が増えています。
写経や写仏、坐禅などを通して、自分と向き合う時間を持つことに、多くの人が重要性を感じているからかもしれません。
修行体験には、宿泊すれば無料で体験できるもの、別途申込をして有料で体験できるものがありますので、利用したい宿坊で用意している修行体験を調べてから予約するようにしてください。